No.2) 薬の位置付けは? (前編)
「奈良君、医者も薬のうちだよ」
私が医者として駆け出しの頃に、当時の上司(塩入准教授、現在は岐阜大学教授)が仰っていた言葉である。
「うつ病もプラセボ(偽薬)で治ることがあるんだよ」と仰ったこともあった。
新薬の開発過程において、「本物の薬」と「プラセボ」の比較試験(治験)が行われる。本物とプラセボの治療効果に統計学的な差が認められない場合は、「その新薬(宣伝したい薬、売り込みたい薬)の有効性はプラセボ(たいていはでんぷんや砂糖)と変わらない」ということになる。即ち、「その新薬の有効性は乏しい、又は疑わしい」とみなされ、これまでの数年間に亘る新薬開発の努力や投資が水の泡ということになってしまう。これは製薬会社にとってはまさに悪夢である。
現在認可されて出回っている薬はそのような治験を有効性と安全面の両方でクリアしてきた薬である。これらの治験の過程や結果を表示したうえで、「この新薬は従来の薬やプラセボよりも安全、且つ、有効ですよ」と宣伝する為の広告が製薬会社のパンフレットである。
「なるほど」と思う一方で、よく見ると、新薬には及ばないながらも、「プラセボでも改善しました」というケースも少なからずあることに気が付く。多くの場合、治験を受けている方々には、実際に服用しているのがプラセボであってもそのことが知らされることはなく、「新薬(=良い薬)」と信じて服用している。
プラセボ効果は「暗示効果」でもあるといえるが、この「暗示効果」は決して治験だけの話ではなく、実際の治療現場においてもみられることがある。実際の診療においては「プラセボ」を処方するわけにはいかないが、同じ薬を処方しても、「普通に効くケース」、「効果不充分のケース」、「サッパリ効かないケース」等々、治療効果には個人差がある。「本当にそんなに良くなったの?」と思うくらいに期待以上の効果を示すケースもたまにある。
患者本人の体質や薬との相性も重要な要因であるが、一方で「この薬は効くんだ」という暗示も決して軽視できることではないと思われる。冒頭の言葉は、「この先生が出す薬だから大丈夫だ」と思わせるくらいの信頼関係が治療効果を高め得ることを示唆している。
信頼関係があれば薬の知識はあまり重要ではないのかというと、それも違う。確かに、治療者の言動や振る舞いは信頼関係の構築において重要ではあるが、薬や治療方法の知識がお粗末ではせっかくの信頼関係を損なうことになる。今の御時世、一部の向精神薬(特に、抗うつ薬、抗不安薬、眠剤)は、決して精神科や心療内科の専売特許ではなく、一般の内科やプライマリー・ケアにおいても処方されるようになっている。まして、精神科や心療内科の専門医であれば、向精神薬についての正しい知識は必要である。
(後篇に続く)
奈良心療クリニック院長 奈良 康
(2014年05月30日更新)
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